HELLO−!
カナダでの仕事を一時休業して北米プチジャーニー中のマサシです。
世界でも名高い東カナダの紅葉期間中に、東カナダを回れるだけ回っておこうというのが今回の狙いです。
北米大陸最東端であるシドニーまで行き着いた後、ノバスコシア州の州都ハリファックスを訪れ、再びバンフに戻るため西へと向かって動き出しました。ですが、せっかくなのでその途中に寄り道をしながら東カナダの見所を回ることにしました。
ハリファックスを出た後はプリンスエドワード島へまっしぐらっ! といきたいところだったのですが、その前にもう一つ行ってみたいイベントが見つかりました。
それはニュー・ブランズウィック州のモンクトンという街にありました。
特になんの変わりもない田舎町なのですが、この街中を流れているプティーコディアック川という川で「ダイダルボーア」という不思議な現象が起こるらしいのです。
ダイダルボーアとは意味はよく分かりませんが、なんと川の流れが逆流する現象のことです。この現象は毎日起こり、日々その時間がずれ込んでいくので毎日その日の地元新聞にダイダルボーアが起こる時間が載っているのでした。
ちょうどモンクトンには一泊しない予定だったもののバスの乗換えのため3時間ほど停車することになっていたので、あわよくばこの間にダイダルボーアが起こってくれないかなーっと期待を込めてはりきっていました。
さっそく観光案内所に行って新聞を開き今日のダイダルボーアの時間を調べてみると・・・、あちゃーっ、この日のダイダルボアーの時間はギリギリ過ぎちゃっていました。
ガックン・・・、と落ちかけた首をコキャッと正面に戻し、
「そんなわけがない! 自分に限ってそんなことは!」
と親指でズボッと新聞紙に穴を開けてしまいました。
はいっ、現実逃避!
とりあえず新聞は見なかったことにして、プティーコディアック川の畔まで行ってみることにしました。
プティーコディアック川は川幅200mぐらいのそこそこ大きな川です。水の色は赤土が溶け出しているせいで赤みを帯びた茶色です。
プリンスエドワード島は赤土の島だと聞いていたので、この川の色を見たときに同じ赤土地帯に入ったということでプリンスエドワード島がもうすぐそこまで来ているのだと実感しました。
「この川で泳いだら、僕は赤毛になるのかな?」
そんな「なるわけもない」、「なる必要もない」、「なっても困る」ことを考えることに飽きた頃、今回持参した文庫本「赤毛のアン」を読み始めました。
それほど時間も経っていなかったのですが、読書をする集中力も切れ、気分転換に笛を吹き始めました。選曲は紅葉シーズンにふさわしい「小さい秋」。あの物悲しいメロディーが今途切れんばかりに尾を引いていたその瞬間、来ました!
「確かな偶然」と言う名のプチミラクルが!
チャパチャパと音をたてながら川下のほうから水が逆流してきたのです。
もともと流れている川に覆いかぶさるように川下から水が流れてきて水の流れの方向を変えているのです。
僕はてっきり川の水が一度止まって、ゆっくりと逆方向に動きだすのかと思っていました。
エスカレーターで例えるなら下り用のエスカレーターが一度止まってから上り用として再起動する感じと同じように想像していましたが、そうではなかったのです。
再びエスカレーターで例えるなら下り用として動き続けているエスカレーターに大勢の子供たちが根性で下から上がってきているようなものです。それはもう、傍から見たらどう見ても上り用エスカレーターとしか見えないほどに。
これと同じことが川で水によって行われているのです。
予定時刻から2時間ほど遅れての逆流です。だからこそ、妙に嬉しくなりました。
目の前で起こっている現象は別に人生観が変わってしまうほどのものでもないことはもちろんのこと、「絶対に一見の価値あり!」と豪語できるほどのものではないのですが、可能性が低いものほど叶った時の喜びは大きく膨れ上がるのです。
僕は思わずカナダらしくカウボーイ級の巻き舌雄叫びで吠えてしまいました。
「ルリリリリリィィィヤァッホォーウァッ!」と。
なにはともあれ、無事ダイダルボーアを見ることができました。モンクトンには一泊することなく、ご機嫌で再びバスに乗り込みました。
次の目的地は、今度こそ「プリンスエドワード島」です。
「プリンス・エドワード・アイランド」、頭文字だけとって通称「P・E・I」と呼ばれています。
プリンスエドワード島と言えば、もちろん「赤毛のアン」ですよね。
作家モンゴメリーがプリンスエドワード島を舞台にし、想像力豊かな孤児である養女を主人公にその生涯を物語った世界に名高い名作です。
ぱっとしないカナダ文学作品の中で唯一と言っていいぐらい飛びぬけたものです。それだけにファンも多く、毎年快適な季節になると沢山の観光客がプリンスエドワード島にある「アンゆかりの地」の数々を訪れます。ここも緯度が高いので冬は長く寒いです。雪の積もった景色も悪くはないかもしれないけど、やっぱり青空と赤土と緑の芝生のコントラストが売りのこの場所には雪のない季節にくるのが望ましいのです。
そんな僕も「赤毛のアン」愛読者の一人。
今回は是非とも評判高いプリンスエドワード島の視察を口実に、一通りの「アンゆかりの地」は回っておきたかったのです。
島に架けられた長い橋をバスで渡り、プリンスエドワード島に入りました。
宿を構えたのはシャーロットタウンというプリンスエドワード島で中心となっている街にしました。ユースホステル等の安宿がないこの島ではB&B(ベット&ブレックファースト)に泊まるのが一般的です。数日前に宿には予約を入れておいたので、そこの宿を経営している初老の男性がバスディーポ(バスターミナル)まで迎えに来てくれる手はずになっていました。
「赤毛のアン」を読んだことがある人なら分かると思いますが、駅ではないものの「赤毛のアン」の物語とそっくりなシチュエーションができました。
バスを降りちょっとドキドキしながら迎えを待ちました。すると農夫ではないものの、大体イメージ通りの「おじ様」が車で現れました。
「あなたがマサシですか?」
「ウッ・・・、ウィッ!」
プリンスエドワード島はフランス語圏ではないはずなのに、思わずフランス語で答えてしまいました。
小さな少女とは似ても似つかないバックパックを背負ったヒゲ男はモジモジしていると、
「荷物を貸しなさい。車のトランクに乗せよう」
と言われたので、
「大丈夫、自分でできます。このカバン柄のところが壊れていて持ち方にコツがあるんです」
そう、アンが物語の中で言った台詞をそのまんまひっかけて答えてみたのですが、おじ様は無言で運転席に乗り込み軽くスカされました。
そんなこんなで宿が決まり、早速翌日から「アンゆかりの地」巡りに出かけました。
旅行会社だけでなく各宿からも「アンゆかりの地」個人ツアーが幾つも出ているので、誰でも簡単に島を回れるようになっています。
ただ僕はツアーにはできるだけ参加したくないので、待ち合わせた友人とレンタカーを乗り合って回りました。
プリンスエドワード島は一日あれば簡単にぐるりと一周できてしまえるほどの小さな島で道路も単純にひかれています。
「モンゴメリーの家」、「輝く湖水」、「ケンジントン駅」など作家モンゴメリーと物語「赤毛のアン」に関する名所を次々と回っていきました。
その中でも最も代表的な観光名所である「アンの家」というのがあります。
アンの家には「グリーンゲイブルス」という名前が物語り上でつけられており、名前の通りの緑色の屋根に白い建物の可愛らしい家です。
そもそも「赤毛のアン」というタイトルは日本語タイトルであり、本当の英語オリジナルタイトルは「グリンゲイブルスズ・アン」なのです。
観光名所となっている「アンの家」も物語の中の家に限りなく近くなるように演出されています。元々この家はモンゴメリーの親戚の家だったみたいで、「赤毛のアン」が世に出て有名になってから物語にあわせて中を改造したそうです。
上手い具合に家の前には物語で登場した「お化けの森」、「恋人の小道」のモデルとなった森もあります。ここまで揃うと「赤毛のアン」は本当に実在した人物であるような錯覚に陥りそうでした。
次々と「アンゆかりの地」を巡っていくうちに、
「あれっ? あそこはモンゴメリーのゆかりの場所だったのか? それともアンのゆかりの場所だったのか、どっちだったけな?」
と実在したモンゴメリー関連の場所なのか、架空のアン関連でこじつけられた場所なのか混乱してしまいそうでした。
そして、最後に僕の中でのハイライト「モンゴメリーの墓」に訪れました。
筆を執ることに喜びを感じ「感受性」というものに重きを置いた同じ人間として、是非とも墓前で手を合わせておきたかったのです。
モンゴメリーは物語の中でいろんなものに名前を付けて「命」を吹き込むように「想い」を吹き込みました。その「想い」は世代を越えて世界中に伝わり、人々をその場所に集めることになったのです。
「まぁ、なんと素晴らしことなんでしょう!」
アンでなくても思わず胸の辺りで両手を合わせて、そう叫んでしまいそうです。
そこで合わせた両手はそのままモンゴメリーの墓前にて「合掌」へと変わりました。
まぶたを閉じたままで小僧は誓いました。
「僕もまたこれから筆を執り、あらゆるものに名前を付けて命と想いを吹き込んでいきます」と。
ゆっくりとまぶたを開けると滲んだ景色の中には無数の十字架の姿が!
慌てて僕は指と指を絡めて組み、なにもなかったようにほざきます。
「アーメン」。
いつの間にやら「関門化」してしまった「偉人の墓参り」にモンゴメリーが加わりました。
P・E・I、悔い無し! です。
翌日にはバスに再び乗り込んでプリンスエドワード島を後にしました。
次なる目的地はケベック州の「モントリオール」です。
モントリオールもまた人気の高い美しく快適な都市です。オフィス街から徒歩で行ける旧市街を抜けると、海ではないものの海ほどの湖による港が広がっています。オフィス街を挟んだ港の反対側には大きな丘があり、その丘全てが公園になっているのです。
モントリオールもケベック州なので基本的にはフランス語圏なのですが、都会ということと英語圏であるオンタリオ州に近いこともあり人口の50%以上の人が英語を話せるのです。
語学学校も沢山あります。フランス語を学びたくてフランスに行きたかったのに、フランスではフランス語を話せない外国人を雇用してくれるところが少なく、仕事が見つけ難く生活が困難だということで、とっかかりとしてフランス語圏であるケベック州に来てフランス語を勉強している人も少なくありません。
そんな人達にとってモントリオールは仕事も見つけやすく、英語もそこそこ通じるということで住みやすい街なのです。
僕のここでの目的は紅葉です。
名物となっているスモークミートとベーグルを食べ、街を一頻り歩いた後に本格的な紅葉干渉に繰り出しました。
「モン・ロワイヤル公園」という山ほどの丘が丸々一つ公園になっている所が街に隣接しているので足を運びました。
そこで目にした光景とは!
一面に広がる紅葉化したメイプルリーフの世界でした。
僕が感激したのは紅く染まった木に群がる紅葉ではなく、大地に舞い降りた、目が眩むような鮮やかな「木の葉のじゅうたん」でした。
紅葉の時季も中盤を過ぎていたので、落ち葉の数もかなり割合を増していたのです。フッカフカの大地に思わず受身を何度もとってしまいました。適度に柔らかく広いところに立つと思わず受身をとってしまうのは合気道家の習性でしょう。
それにしても、これは想像以上でした。
紅葉は東カナダのメインイベントではあったけれど、心のどこかで「しょせんは色の変わった葉っぱじゃないか」と思っていたところがありました。
んがしかし、ここまで視界を全て色とりどりの小さな楓という手の平に遮られてしまうと、それから受ける威圧感はすごいものでした。
これは「紅葉力」とでも呼ぶべきでしょうか?
紅葉力に押されながらも僕は思わず苦し紛れに「チョキ」を出してしまいました。
はい、私はこの程度の人間です。
そんな「フカフカ」を踏みしめながら、モザイクがかったような凝視しにくい通り道を歩き出しました。
貴重なものと感じていた紅く染まったメイプルリーフの上を歩いていると、
「きっとお金の札束の上を歩くとこんな感じなんだろうな」
という「想像力」と言ってしまってよいのか、それともこれは「雑念」と呼ばれてしまうのでしょうか? そんな思いが木の葉と一緒にチラついてきます。
今回東カナダの旅では、いつもメイプルリーフを一枚だけ帽子に挿して歩いてきました。しかし、その葉はすぐに乾燥してパリパリにひび割れてしまいます。もって三日が限界です。その度にメイプルの木を見つけては、付け替えてきました。
せっかくなので、ここらで帽子のメイプルリーフを付け替えてやろうと思い、一面広がるメイプルリーフの中から完璧に整った、非の打ち所のないほどのリーフを探し出してやろうと集め始めました。
探し始めてから間もなく何枚かの形の整ったメイプルリーフを拾えたのですが、歩きながらもついついより良いものを求めてキョロキョロしていました。
30分ほど歩くと、いつの間にやら片手では持ちきれないほどの葉っぱでいっぱいになってしまいました。
片手に掴んだ葉っぱをにんまり眺めながら満足していると、ピューっと北風が吹き数枚の木の葉がヒラリヒラリと新たに舞い降りて来ました。それらの葉を無意識に目で追いながらも綺麗な形だったので素直に「欲しい!」という思いが頭によぎりました。
舞い降りてくる木の葉に手を伸ばし、掴みかけたその瞬間、ピューっと再び北風がまるで口笛をいたような音をたてながら吹きぬけ、掴もうとした木の葉を遠くまでさらっていってしまいました。
その時!
「パチンッ!」
とまるで猫だまし(相撲で相手の顔の前で手を叩き注意を一瞬逸らしてすきを作る技)でもくらったかのような衝撃と供に一枚の他の木の葉が僕の顔にへばり付き、僕の視界を一瞬塞ぎました。
その衝撃は実際には柔らかなものだったはずなのですが、なんだか小さな手の平でビンタをくらったような後味をひきました。
僕にはすぐにその理由が分かりました。
またアイツが姿を現したのです。憎き「欲」という名の天敵が。
帽子に飾る葉は、たったの一枚。もう十分な数の綺麗な形のメイプルリーフを手に入れたはずなのに、また他の美しいものに目移りしてしまったなんて。
「より良いものを手に入れたい」
そんな向上心から生まれる「高い目標」、
こいつと履き違えやすい「ただの欲張り」。
あぁ、風見鶏が回らなくなったと思いきや、今度はメイプルのビンタか。
「カナダの風は厳しいぜ!」
たしかカナダに来た時にも、同じような台詞を吐いたような気がします。
片手に握っていた「紅の札束」を勢いよく頭上にばら撒き、ブサイクな自分にしばしの間モザイクをかけました。
本物の札束なんかより、よっぽど気持ちががいいものです。
自分の中にある「欲」、これら全てにモザイクを画けようとすればひょっとしたら僕自身、木の葉に埋もれてしまうかもしれません。
だからこそ自分の中の欲を認め、そんな自分の中にある醜い一面をこの場に埋めていくことにしました。
これでもう欲張ったりなんかしません。足元の落ち葉を一枚拾い、その場で帽子に挿しました。これで満足なのです。
そしてこの瞬間にこの地での想い出も一つ生まれたことになります。
若き日の欲張った醜い自分から卒業したという想い出が。
気分を新たに再びモザイクストリートを歩き出しました。
カナダは通称「モザイク国家」と呼ばれています。
同じ他民族国家である「アメリカ合衆国」は各国の民がアメリカ合衆国という一つの大きな文化に溶け込み融合して特徴を出しました。
それに比べてカナダでは各国の民が自国の文化と特異性を失うことなく、モザイクのように組み合わさって国家を形成しているのです。
日本の約27倍の面積の中に住むカナダ人の人口は約3000万人。そのうちイギリス系が38%、フランス系が25%を占め、その他ドイツ、イタリア、ウクライナ、オランダ、ギリシャ、ポルトガル、中国、インド系が共存しています。イヌイット(エスキモー)と先住民(インディアン)はわずか人口の数%ですが、その数%と白人との混血であるメティスと呼ばれる人達が3%いるそうです。
カナダは歴史的背景の中に奴隷制度がなかったからこんな多くの多民族達が争うことなく上手くやれていると言われています。
そんな歴史背景に加えて生活していくのに厳しい「北の地」、そこで供に生きようと団結力が生まれました。
とっても素敵なことですよね。
今僕はそんなモザイク国家にふさわしいこの艶やかな道を、「旅」という中で突き進んでいます。
今この瞬間もまるでモザイクがかけられたかのように旅の行きつく先はまったく見えません。 しかし、足並みは不思議と木の葉のごとく軽いのです。
そして、この時なにげなく口ずさんでいたBGMも愛執歌でこそありますが、気分は晴れ晴れしています。
自分のしていることが間違ってはいないと実感できている証拠でしょうか?
修行として始めたこの旅。ただの「修行者」ではなく、旅を修行として捉えている「旅人」と名乗っている以上は、時には鬼と化して難易度の高い関門を越えていかなくてはいけないこともあります。
大げさなようですが、それぐらいの覚悟で日本を出てきたのです。
無意識に強く握り締めた拳をゆっくり開くと、少し汗ばんだ普通の楓の数倍はある自分の手の平が何かを主張しているのを感じました。
僕は思わず巨大な手の平の上にマジックで「魁」という文字を書いてしまいました。
できるだけ短い言葉でこの時の心情を表したかったのです。
「魁」とは「先駆け」とも書き、衆に先立って敵中に攻め入るという意味です。
つくり(旁)の部分の「斗(マス)」というのは度量衡器の意で、容量の単位としての「一斗」は一升の十倍の18.039? にあたります。
ちょうどこの時の僕の厳選されたバックパックもこれぐらいの重さですかね。
「斗」を背負った鬼と書いて「魁」。
とっさに思いついたにしては、今の僕に相応しい一文字です。
「衆に先立って・・・」
とありますが、今の僕は一人旅ですので先立てる対象は、
「遠く離れてはいるけど、いつも身近に感じている大切な友人達」
ということにしておきます。
離れていても・・・離れているからこそかもしれませんが、近くに感じているのです。
筆でこそありませんが、手の平にビシィッ! と入魂の一文字を刻み込み、帽子に挿したメイプルリーフを一なでした瞬間、
「とっぴんパラリンぷぅー」
とけったいな効果音をたてて「閃きの電球」が光り「プレゼント」という文字を浮かび上がらせました。
え!? 自分が紅葉で楽しんだ後は、友人達にもその喜びを御すそ分けしろってことかい?
なんでわざわざ太平洋挟んでるこんな遥か彼方から国際郵便を使って葉っぱを送らにゃならないのさ! と思いながらも、もう決めちゃってました。
様々な色と大きさのできるだけ綺麗な形のメイプルリーフをたっぷり拾いました。
やっぱり「自分のため」より「人への贈り物」と思って拾うほうが楽しいし、気合も入るのです。
さすがにそんなに沢山の人に送ることはできませんので、この時期に結婚をした友人が数人いたので結婚祝いとして、この「紅の札束」を送ることにしました。
まったくえらく安上がりな御祝儀ですこと。
しかしながら、木々達が自分にそっと語りかけるのです。
「志は木の葉に包め!」と。
ちょっと長くなってしまったこの「モンロワイヤル公園」でのエピソード。長くなったついでにもう一つ。
帰りしな、飽きることなくフカフカを楽しんでいたら、変な集団に遭遇しました。
全員、中世のヨーロッパの戦士のような鎧と兜を身にまとい剣や槍、盾を手に集まっていました。中には弓を手に、背中には矢を背負っているヤツや魔法使いのようなダブダブのローブを纏っているヤツもいました。
そこから少し離れた所にも、同じような装備を纏った別の集団がいました。
怪しげだけど興味深いので、近寄って何の集まりなのかを尋ねてみたところ、
「今からあいつらと戦うんだよ」
と兵士は離れた集団を剣で指しながら答えました。
どうやら彼らは手作りで衣装や武器をこしらえて身に纏うという、日本でいうなら「コスプレ」団体のようですが、日本のようにただ衣装を纏うだけでなく本当に戦ってしまうようです。
野外なのに筋金入りの「オタク」なのです。
戦い開始の合図がなりました。合図が鳴るや否や、全員一斉に陣を組んだまま突撃して行き、相手側も陣を組み向かって来るのでした。
最前列である第一陣の盾を構えた兵士達が互いにぶつかり合い、殴り合いが始まりました。殴り合いに使っている武器と言うのはもちろん金属でできているわけではなく、ゴムやスポンジを巻いたもので、殴られてもダメージを受けないような工夫が施されたものでした。盾や鎧も似たような物でできていました。おそらく発泡スチロールにペイントを施したものでしょう。
それにしても、ここまでやるかケベッカーって感じです。
もちろん本物の戦争装備に比べたらおもちゃの何ものでもありませんが、ここまで大掛かりなものになると一見本物にも見えなくはありません。そしてさらにこの人数。ざっと見て50人以上はいます。完全に映画「ロード・オブ・ザ・リング」です。
そんじょそこらの部活動よりもよっぽど気合が入っているこの集団、団体名を尋ねても
「名前なんかないよ。やりたいヤツが適当に連絡取り合って集まってるだけさ」
と言っていました。
「適当に・・・」の次元じゃないと思うんですがね。
遠ざかりながら勝手にこの団体の団体名を考えました。どうせならアンのように素敵な名前をつけてやろうと。
うーん、よしっ!
「魁!男塾」。 ダサっ! って言うかパクリ!
はい、私はこの程度の人間です。
そんなこんなで、紅葉力満ち溢れたモンロワイヤル公園を十分に堪能して宿に戻りました。
のんびりしている時間はありません。宿に戻って「紅の札束」を無料で配布されている「モントリオール観光案内」のパンフレットに一ページずつ丁寧に挟んでテープでぐるぐる巻きにしたら郵便局から郵送です。行き先は結婚式場、もしくは新婚夫婦の新居です。
住み心地良さそうなモントリオールともお別れです。
ここから次の目的地「トロント」まではカナダの高級列車VIA鉄道に乗って移動します。大手バス会社グレイハウンドのバスパス(定期券)を持っている人は、それが適用するとのことで、無料でトロントからモントリオール間だけ乗ることができるのです。貧乏バックパッカ−はこんなチャンスにしかVIA鉄道を利用することはできないので、ヨダレをぬぐい、ヨダレ付きの手で乗車券を受け取ってきました。
豪華列車の車窓からオシャレな都会を一望すると、短いながらもチラホラと近い想い出が舞い降りてきます。
特にモザイクストリートでは期待以上に素敵な想い出が残りました。
カナダというモザイク国家で過ごす残りの滞在期間、
「実際のところ、後何ヶ月になるのか?」
「本当に仕事は上手くいくのか?」
モザイク国家を出た後も、再び始まる移動生活。これも、
「実際のところ、何年になるのか?」
「本当に旅が続けて行けるのか?」
と未だ見通しはついていません。
僕の人生においての「道」も、目を細めたって見えやしない正に「モザイクストリート」なのです。
しかしながら、そんなモザイクの向こうから呼ばれているようにさえ感じるのです。
もしかしたらこういうのが英語で言う「CALLING(天命とか天職という意味)」というやつなのかもしれませんね。
♪ 誰かさんが、誰かさんが、誰かさんがみーつけた
小さい秋、小さい秋、小さい秋、みーつけた
目隠し鬼さん手の鳴る方へ、澄ましたお耳に微かにしみた
呼んでる口笛、 モズの声
小さい秋、小さい秋、小さい秋みぃーつけたぁー。
この時季ベタベタながらも頭にチラついていたこの哀愁歌。
僕はいつも「誰かさんがー」のパート(部分)では、自分の親指でビシィッ!と自分の顔を指してやるのです。こうするとどえらい自己主張が強い哀愁歌に早変わりです。
「ちょっとこのバカ息子! いい歳した男が童謡なんか歌いながら、楓だかもみじだか知らないけど、そんなもの拾って気持ち悪っ! 何探してんだか知らないけどいいかげん仕事みつけなさい、仕事! 呼んでるのは私たちよ。早く帰ってきなさーい!」
あ痛ぁー。
親が子を想う心は「一日千愁」とはよく言ったもので、こんな遥か彼方にも主張の強い秋の声が聞こえてきそうです。
もう少しさかのぼった記憶に目を向けてみると、あっ・・・、モンゴメリーの墓の前で誓ったように何かに名前を付けたり命や想いを吹き込めたのでしょうか?
男塾・・・いやいや、これはなかったことにしましょう。
おっ、ありました。
あまりにも自然に使っていた単語、「モザイクストリート」。
いつの間にやら、定着してしまいましたね。
いつか僕が有名になって、そして死んでしまった日には、このモンロワイヤル公園は「マサシゆかりの地」として有名になるのでしょうか?
そんな「一見大きな夢物語」、でも言い方をかえれば「獲らぬ狸の皮算用」に近い「なんだかセコイ夢物語」を思い浮かべました。
さらに、
「信用できないカナダの郵便でちゃんと友人の結婚式までにメイプルリーフが届くのかな?」
「グレイハウンドのバスパス期間内にバンフに戻れるかな?」
「この電車、こんなに冷房効いてたら、帽子に挿したメイプルリーフが早く乾燥しちゃうよ」
などと、小さいことを気にしながら乗りなれないタダ乗り高級列車でモントリオールを後にしました。
あー、人間小さっ!
♪ あぁー、小さいオレ、みーつけたぁー
さて、プリンスエドワード島、並びにケベック州を出たこの後は?
カナダ最大の都市「トロント」、そして世界三大瀑布の一つ「ナイアガラの滝」に向かいます。
東カナダのプチジャーニーもそろそろラストスパートです。
それでは、
SEE−−YAA−−−−−−−−−−
FROM まさし